耳鼻咽喉科・頭頸部外科では上田成久、永谷群司、宗謙次、衛藤真由美の常勤医4名と大学派遣医師1名の計5名で診療しています。4名の常勤医は全て耳鼻咽喉科専門医です。頭頸部腫瘍の患者様に関しては、おもに永谷と衛藤の2名が担当しています。
診療科の特徴
耳鼻咽喉科の特長
頭頸部外科の特長
よく尋ねられるのですが、耳鼻科の病気でも腫瘍があります。ときには悪性腫瘍(がん)もできるのです。当然、適切な診断・治療を受ける必要があります。
頭頸部悪性腫瘍(がん)の発生する部位は、呼吸する、食べる、話す、といった人間の極めて重要な機能に関わるため、がんを治すだけでなく、できるだけ機能を温存する治療法が要求されます。早期癌では、手術することなく放射線治療により機能を温存して治せることもありますが、進行癌になると機能再建手術を含めた手術治療が必要になることが多くなります。再建術では、術後の機能低下・損傷が最小限となるよう外科および形成外科と連携して治療しています。
対象疾患/診療領域
耳鼻咽喉科領域
耳鼻咽喉科領域の全ての疾患に対応しています。具体的にいえば、耳、鼻、口腔、咽頭(のど)の疾患、声の異常、顔面外傷、頸部の腫瘍(甲状腺も含む)などです。また、めまい、顔面神経麻痺、唾液腺の疾患(耳下腺・顎下腺)も担当しています。
月曜日から金曜日まで毎日手術日としており、毎月40例前後の手術を行っています。また、鼓室形成術は他病院の先生と連携を取りながら手術を行っています。
頭頸部外科領域
頭頸部外科で扱う悪性腫瘍(がん)は、上顎癌、舌がん、咽頭癌、喉頭癌、頸部食道がん、唾液腺癌(耳下腺癌や顎下腺癌)、甲状腺がんなど多岐にわたります。つまり鎖骨より上の、脳と眼を除いた全ての範囲の癌が対象となります。
頭頸部がん治療では、食事、呼吸、会話、顔貌など日常生活を送るうえで重要な機能および部位を扱うため、根治性を損なうことなく機能を温存した治療が求められます。
経口的咽頭・喉頭腫瘍切除術(ELPS, TOVS)
頭頸部外科では、経口的に内視鏡を用いて腫瘍を切除する治療が普及しています。対象疾患は良性腫瘍あるいは早期がんになりますが、経口的に腫瘍を切除するため低侵襲治療として非常に有用ですし、放射線治療で生じる味覚障害や嚥下障害が出現することもありません。当科ではELPS(内視鏡的咽喉頭手術)およびTOVS(経口的咽喉頭部分切除術)ともに対応可能であり症例により使い分けています。
舌がん(口腔がん)
口腔がん(舌、頬粘膜、歯肉など)は、早期であれば手術切除により重大な機能障害なく治療が可能です。しかし、進行がんでは再建を必要とする手術が多くなり、症例によっては抗癌剤や放射線治療を適宜組み合わせて治療することもあります。機能再建術が必要な際には、形成外科と協力して機能障害が最小となるよう工夫しています。
咽頭および喉頭がん
早期の咽頭・喉頭がんでは放射線治療や経口的な腫瘍切除など低侵襲な手術を行い、積極的に機能温存を図っています。特に表在癌に対しては、画像検査およびNBI検査から手術適応を判断したうえで、積極的に経口的アプローチで咽頭・喉頭がんを切除します。
放射線治療後の喉頭がん再発に対する治療では、喉頭全摘(声を失う)になることが多いのですが、症例により喉頭部分切除や喉頭亜全摘などの喉頭温存手術を行っています。さらに喉頭全摘では声帯の喪失により発声することが不可能となりますが、気管・食道シャント(気管と食道の間に小さな穴をあける)にプロボックスというチューブを留置して発声機能の再建術も行っています。
下咽頭がん
早期下咽頭がんは、咽頭・喉頭がんと同様、化学放射線治療が有効です。しかし治療期間が長くなる、放射線による副作用が出現するなど、良い点ばかりではありません。最近では腫瘍の位置、性状(表在性か)等から適応を判断して経口的に腫瘍切除する症例も増えています。
進行下咽頭がんは、予後不良な癌の一つです。その主治療は手術治療であり、根治切除と同時に腸管(空腸)を移植して咽頭・食道再建を行う必要があります。当科では形成外科、消化器外科と協力して根治切除および再建術を行っています。
甲状腺腫瘍(良性・悪性)
甲状腺腫瘍の手術では神経刺激装置を用いて、より安全に声を出すのに必要な反回神経を確実に同定・温存し、神経を損傷することなく手術治療を行っています。甲状腺がんにおいても良性腫瘍同様、音声機能を重視して可能な限り反回神経温存を考慮した手術を行います。また、手術治療で時に難渋する縦隔リンパ節転移を伴う進行がんなどでは、胸部外科と協力して胸骨切開によるアプローチにより安全に縦隔リンパ節郭清を行うなど、治療困難な患者様にも適宜対応しています。
過去3年間の甲状腺手術の詳細を「その他」に提示いたしました。ご参考にしてください。
耳下腺腫瘍、顎下腺腫瘍
耳下腺腫瘍の手術では甲状腺手術と同様、神経損傷のリスクを少しでも回避・軽減するため神経刺激装置(NIM)を用いて顔面神経をモニタリングしながら腫瘍切除を行っています。昨年の耳下腺腫瘍手術は19件、顎下腺手術は22件でした。
甲状腺手術について(放射線治療、抗がん剤治療等)
過去3年間の甲状腺手術症例の詳細
2019~2021年 | 甲状腺手術50例 (良性腫瘍:29例 悪性腫瘍:21例) |
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手術時間(平均) | 良性腫瘍:2時間22分 悪性腫瘍:3時間19分 |
術後声帯麻痺 | 良性腫瘍:2例/29 悪性腫瘍:2例/21 |
※尚、良性腫瘍で麻痺をきたした2例は、ともに術後1ヶ月以内に声帯麻痺は消失した。
※上記症例には甲状腺全摘、頸部郭清術や気管切開を行った症例も除外せずに含まれています。
放射線治療、レーザー治療および抗がん剤治療
- レーザー治療では、CO2レーザーおよびアルゴンプラズマを使用しての治療が可能です。CO2レーザーは早期喉頭がんや白板症に、アルゴンプラズマ・レーザーは血管腫などの治療に用いています。
- 頭頸部がんにて放射線治療が必要な場合には、耳鼻科医師が担当となり、外来および入院での放射線治療を行っています。
- 抗がん剤治療は外来治療および入院治療ともに対応しています。その内容は、一般的な抗がん剤から分子標的薬および免疫治療薬と幅広く治療しています。